「里緒」

ポンと肩を、大きな手で抱かれた。


「この後、ふたりでゆっくり話そうぜ。天内の話を色々と聞きたいんだ」



あたしは顔を真っ直ぐ前へ向けたまま、浄火の方を見なかった。


あたしの目は、心は、ふすまの向こうへ向けられていたから。


その先の、あたしの好きな人へと。



「浄火よ、それは後回しだ。お前をこれから各一族の当主たちと目通りさせねばならん」



ババがそう言って近づいて来る。


その気配を感じて、あたしは息を止めた。


この女の吐く息を吸い込むことが、とてもじゃないけど耐えられなかった。



「信子ババ、オレは里緒と一緒にいたいんだ」


「ふふ。あせらずともこの先一生、お前たちは一緒だろう?」


「いやあ! 改めてそう言われると照れるなあ!」



浄火が豪快に笑って頭を掻く。


そしてあたしの肩をバンバン叩いて、ひょいと顔を覗き込んだ。


「じゃあ、後でな。オレの嫁!」



底抜けに邪気のない顔で、そう言って離れていく。


浄火も、ババも、当主たちも、みんな次々と大広間から退室していった。