「おまけに 『長なんか、なりたいやつがなりゃいいんだ』 ・・・ねえ」
瞬きもしない戌亥の目は、無表情の中に、ひどく深くて重いものを宿している。
その目で、何かを悟ったように浄火を見つめて。
何かをつくづくと理解したように、言葉を吐いて。
そして、身を反るほどに大きく、大きく息を吸い。
そして・・・・・・
「やっぱりお前とおれ・・・合わねえわ」
何の前触れも無くいきなり斧を振りかぶり、全力で思い切り橋に叩き付けた。
洞窟内に破壊音がこだまして、痛いほど鼓膜の奥に襲い掛かる。
身動きする余裕も、叫ぶ余裕すら無かった。
信じられないほどあっという間に、ガラガラと橋が戌亥の側から崩れ落ちていく。
支える足元が無くなった浄火の体が、木材と一緒に落下していった。
浄火の後ろ、あたしのすぐ目の前にいた長さんの足場が崩れる。
グラリとバランスを崩し、真っ暗な底へ落ちかけた。
その一瞬。
あたしは反射的に手を伸ばし、長さんの腕をつかんだ。
そして自分の体を半回転させて長さんを引っ張る。
あたしに向けて手を伸ばしていた門川君の胸に、長さんの体が勢いよくぶつかった。
ふたりが後ろへ引っくり返るのと・・・
あたしが、奈落の底へ落ちていくのとほぼ同時だった。


