・・・知らなかった。てっきり浄火も長になりたがってるとばかり。
だっていつも島の将来の事、すごく真剣に考えていたから。
「別に長にならなくったって、島のために尽くす事はいくらでもできる」
浄火は長さんを振り返って言った。
「長には、なりたい者がなるべきだ。そうだろ? ばーちゃん」
「浄火・・・」
「この気持ちをずっとふたりに伝えたかったけど、言う機会がなかった」
長さんは、胸に迫るような表情で浄火を見つめている。
シワだらけの顔が、今にも泣きそうに歪んでいた。
そして厚く礼を告げるように、深く謝罪するように、浄火に真っ白な頭をペコリと下げる。
浄火の口元が・・・わずかに微笑んだ。
浄火。それに、長さん。
形は違えど、この島の未来を真剣に考えてきたふたり。
あたしの目に、ふたりの間に繋がる糸が見えたような気がした。
「戌亥、さあ、お前も一緒に村へ行こうぜ」
浄火と長さんが、戌亥を見る。
晴れて長の座を手に入れた戌亥は・・・・・・
眉ひとつ動かさず、ネットリとした目でふたりを見ていた。
「長に 『なんか』 なる気はない。・・・ねえ」
「戌亥?」
「長に 『なんか』 ならなくっても。・・・ねえ」
「・・・・・・・・・・・・」


