この異形は本来、人間に寄生するタイプじゃないはずだ。


だって常世島は、もともと人間は住んでいない場所だったんだから。


門川の上層部が、ここに無理やり厄介者を押し込めるまでは。


本来なら宿るはずのない体に宿ってしまった異形。


いったいどんな影響を及ぼすのか・・・。


「それを知っているのは、そなたであろう? 長よ」


絹糸はチラリと厳しい視線を向けた。


ダラリと両肩を落とし、力無く立ち尽くす小柄な老女。


シワだらけの弱々しい表情からは、これまでの威厳は完全に抜け落ちてしまっている。


「おぬしは、この男に話す義務があろう」


長さんは反射的に顔を上げて浄火を見た。


そしてパッと視線をそらし、苦悶に満ちた表情で唇を噛みしめている。


しばらくの間、彼女は心の中で葛藤し続けて、やがて・・・


観念したように小さくうなづき、話し始めた。


「ここは・・・歴代の長だけが知る、固い掟に封印された場所なのだ」


固く封印された・・・?


誰にも知られないように、隠し続けてきた秘密ってことか。


「この水の存在と共に、長達はずっと伝え続けてきた。『決して、この水を口にするな』 と・・・」