例の恐怖の板橋をギシギシ渡り、濃厚な黄昏色に染まった洞窟を進む。
ふと、奥の方から反響する音に気が付いた。
「・・・・・・」
「・・・・・・!」
人の話し声かな?
というよりも、言い合いをしているような声に聞こえる。
「あれ、なに? 誰の声?」
「ひとりは長のばーちゃんみてえだな」
「ケンカしてるのかな? 誰と?」
訝しく思いながら先へ進むうちに、だんだん声がはっきり聞こえてきた。
「何でなんだよ! おばあ様!」
「戌亥よ、落ち着くがよい」
「今度こそちゃんと答えてくれよ!」
戌亥? 戌亥が来てるの?
・・・げ、やだなー。またアイツと鉢合わせなの?
さらに奥へ進むと、突き当りの壁画の前に立つ、長と戌亥の姿が見えてきた。
なにやら懸命に訴えている戌亥に、長が背を向けているみたいだけど。
「・・・おい、祖母と孫でケンカしてるぜ?」
「身内でモメてる真っ最中かい? やれやれ、面倒だねぇ」
「そこへご挨拶に顔を出すというわけにも、いかぬでおじゃる・・・」
仕方なくあたし達は岩の陰に身を寄せ、そのまま様子を伺った。
盗み聞きをするつもりはないけど、どうしても会話の内容は聞こえてしまう。