「戌亥、このメガネ当主は最初から、逃げも隠れもしちゃいねえんだよ」
「こいつを庇うのか!? 浄火、やっぱりお前はよそ者・・・!」
「見りゃ分かるだろ? こいつはただ、救っただけだ。ふたりをな」
浄火は、門川君の背中をじっと見ていた。
「オレら島民が誰もできなかったことを、よそ者がやりやがった。・・・それだけさ」
「・・・・・・・・・・・・」
戌亥も島民たちも、思わず門川君の横顔に見入った。
憂いを帯びた、その美しい横顔。
澄んだ冬の空気のような眼差しで、母子を無心に慈しんでいる姿。
―― スッ・・・
母親が、子どもを抱きかかえながら立ち上がった。
愛しげに子どもの髪に頬ずりしながら、フラフラと歩き出す。
「さあ、帰ろうね・・・おうちへ」
涙で枯れ果てた声でそう言って、村へと向かい始めた。
「・・・・・・・・・・・・」
無言でその背中を見ていた島民たちが、ひとり、ふたりと後を追い始めた。
次から次へ、ゾロゾロと村へ戻り出す。
「おい! みんな! おいって!」
慌てて戌亥が声をかけるけれど、聞く人は誰もいなかった。
母親を囲んで寄り添い守るように、村へと帰っていく。


