涙で汚れた母親が、呆けた顔をゆっくり上げる。
その目は作り物のガラスのように、意思の力がまるで感じられなかった。
「もっと僕が早く来るべきだったんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「そうすれば、海の異形も倒せたと思う」
「・・・・・・・・・・・・」
「ごめんよ」
見開かれたままだった子どもの両目を、門川君が手で押さえる。
まぶたが静かに閉じられた。
それだけで・・・・・・安らかな表情になる。
まるで救われたように。
呆けていた母親の顔がフルフル歪んで、目に涙が盛り上がった。
むせぶ声と一緒に、汚れた頬にまた新しい涙が流れ落ちる。
・・・・・・ふと、主さんの言葉を思い出した。
『ただ、その子を悼んでおやりよ。その子のために泣いておやり』
誰のせいだの、責任だの。
こっち側だのあっち側だの、よそ者だのと。
周りの大人は、あなたを前にそんなことばかりを口にして。
・・・・・・・・・・・・。
ごめん、ね。
ごめんね。ごめん。
ごめんね・・・・・・。


