厳かに断言する彼に対して、戌亥は息を飲み、声を失った。
静まり返った空間に、聞こえるのはマロさんの声だけ。
「永久様の言う通り・・・不条理を『道理』として受け入れるわけには、いかぬでおじゃる」
凄みすら感じられるほど真剣な彼の声を、この場の全員が聞き入っていた。
事実から生まれるマロさんの言葉は、見過ごすことのできない重みと迫力があって。
島民はみんな複雑な表情を浮かべている。
まるで正論を突き付けられた子どもが、心の中で懸命に反発するような。
どこか後ろめたいような、そんな顔をしながら物も言えずに立ち尽くしていた。
そんな、気まずさの漂う空気の中で・・・・・・
門川君がひとり、動いた。
(門川君・・・・・・?)
―― ザリ・・・ ザ・・・
彼の真っ白な履き物が、土を食む音がする。
その小さな音が、張りつめた糸のような空気を少しだけ緩めてくれた。
あたしも皆も、救われたような気持ちで彼の動きを目で追う。
ゆっくりと彼は、魂の抜けたような母親の元へと近づいて行った。
そしてその場にしゃがみ込み、彼女が抱いている子どもの髪を・・・そっと優しく撫でた。


