「気持ち良いでおじゃろう? さぞ、気持ちが高ぶっておじゃろう?」
「なんだお前? さっきから何を言っている?」
戌亥が不審そうに言った。
マロさんはやっぱり背を向けたまま、ポツリと答える。
「自分たちだけに通用する理屈を振りかざして、さぞや気持ち良かろうと言っておじゃる」
「なんだとぉ!?」
「嫌味ではおじゃらぬ。麻呂には、手に取るように分かるのでおじゃるよ」
うつむいた後ろ姿が、訥々と語った。
「麻呂も・・・かつて全く同じであったゆえ」
悲哀のこもった声。
それは、悔恨の滲み出るような声だった。
その寥寥とした背中に、戌亥も島民も思わず声を失っている。
「麻呂たちも千年、よそ者を責め続けた。そして自分達だけの道理に閉じこもり続けたあげく・・・」
ポツンと、こぼれる言葉・・・。
「道を、踏み外したでおじゃる」
端境 典雅(はざかい てんが)。
由緒正しい、そして、悲遇の端境一族の当主。
かつて座り女の雛型を利用して、世界を破滅に導きかけた。


