その瀕死状態を一瞥し、彼は即座に印を組んで術を発動した。
―― パリーン・・・!
突き刺さったナイフが薄氷で覆われ、粉々に砕け散る。
そしてふわりと、煙が散るように宙に消えた。
素早く唱えられる言霊。地面に浮かび上がる白い陣。
輝く光が、主さんの傷付いた体を包み込んでいく。
それはあっという間の出来事で、まるで流れ作業を見るような手際の良さだった。
息を詰めて見守っていたあたしは、全身で息を吐き出しホッとする。
これできっと主さんも助かる! 良かった!
「お・・・おいお前、なにしてる!?」
戌亥が甲高い尖った声をあげた。
「異形の命を救うとは、お前もこいつらの仲間だな!?」
戌亥は荒々しい足取りで、目を瞑って静かに術を発動している門川君に近づいていく。
そして治癒を止めさせようと、彼の肩に向かって乱暴に腕を伸ばした。
・・・なにすんの!? やめてよバカ!
―― ビシィッ!
氷龍の長く太い髯が、ムチのようにしなって戌亥の足元を叩いた。
戌亥はビクリを身を震わし、とっさに門川君に向けていた腕を引っ込める。


