カラカラ笑う浄火の背が揺れて、あたしは思わずしがみつく。
彼はそのまま坂をどんどん登っていった。
大きく上下する肩口から、ハッハッと乱れた呼吸が聞こえてきた。
広い背中から熱が立ち昇り、生地を通して薄っすらと汗を感じる。
浄火・・・やっぱりかなりキツイんだ。
「遠慮、すんな。里緒は、オレの、嫁だろ?」
息の上がった浄火の声が切れ切れに聞こえる。
「あ、あたしは・・・」
『あたしは、あんたの嫁なんかじゃない』
いつものその言葉は、ノドに絡まったように口から出てこなかった。
とても・・・・・・出せなかった。
「心配、すんな。守る、から」
ひどく荒い息。
大きく揺れる背中。
湿った汗の匂い。
その全部が、全部が・・・あたしには・・・。
「お前も、赤鬼も、オレ、守、から・・・」
目の前の浄火の黒髪。
ピタリと合わさる彼の背中とあたしの胸。
この足に触れる手。
守ると誓う、真っ直ぐな言葉。偽りの無い確かな気持ち。
あたしの胸がギュウッと痛んだ。
浄火、あたしは、あたしは・・・・・・