「・・・お岩さあぁぁんーーー!」
お岩さんが落下した後を追うように、ウツボとヘビ少女が海へ落ちていく。
それはまるで作り物の動画のワンシーンのように思えた。
巨体が飲まれたというのに、水音は少しも響かないし水しぶきもたたない。
空気に吸い込まれるように、全員の姿が消えていく。
その異様な光景こそが、この海の恐ろしい奇怪さを知らしめていた。
こんな不気味な海の中へ、お岩さんが落ちてしまったなんて!
「嘘だ。嘘だ。嘘だ。・・・こんなの、嘘だ!」
あたしは繰り返し叫びながら船の端に駆け寄り、下を覗きこむ。
揺らめくオーロラの光の束が、何事もなかったように静かに波打っている。
底の底まで透けて見えそうなのに、お岩さんの姿はどこにも見当たらなかった。
でもいま落ちたばかりなんだから、きっと近くにいるはずだ!
すぐそこに・・・すぐそこにお岩さんがいる!
あたしの助けを信じて待っているはずだ!
「待っててお岩さん! 今行くから!」
夢中で海へ飛び込もうとするあたしの襟首をつかみ、誰かが思いっきり後ろへ引っ張った。
「里緒、死ぬ気か! やめろ!」
ヨロけたあたしの体を、浄火が後ろから羽交い絞めにした。
あたしは両手両足をジタバタさせて、死にもの狂いで抵抗する。


