「お、お岩さんー! 早く逃げてぇーー!」
あたしの悲鳴に、我に返ったお岩さんが弾かれたように逃げ出した。
でもあれじゃ絶対に間に合わない! 巻き込まれる!
あたしも無我夢中で走り出しながら、全意識を集中して気を高めた。
こうなったら滅火の力でウツボを滅して・・・!
「里緒! よせ!」
あたの術が発動する気配を察知したのか、浄火が叫んだ。
「ヘビ女が巻き添えをくらっちまう!」
「・・・!」
あたしの足と、気の集中がビタリと停止した。
そ、そうだ。いま術を発動したらヘビ少女も一緒に滅してしまうかも。
ヘビ少女の存在なしにこの海は渡れない。
(ああ、でも、このままじゃお岩さんが!)
それは時間にすればほんの一瞬の逡巡だったろう。
でも・・・その一瞬が命取りになった。
―― グラリ・・・!
ウツボとヘビ少女が端へ移動した重量で、船が大きく傾いた。
「きゃあああーーー!」
船の端ギリギリを走っていたお岩さんはバランスを崩し、悲鳴を上げながら海へと落下していった。


