浄火の少し冷たい口調に、あたしは慌てて返事をした。


これは渡る者を阻む時空の狂った海。


どんなに美しかろうと、常世島の人たちを閉じ込める魔の海だ。


島の人たちにしてみれば、「きゃー、キレイ」どころの話じゃないだろう。


脳天気に浮かれちゃった。悪いことしちゃったな。


「実際、この海へ乗り出した者もいる。でもひとりとして・・・」


浄火は、厳しい目で海を眺めた。


「渡った者も、戻った者もいない。全員、飲み込まれちまった」


いざなうように美しい、幻想の海原。


それは真の意味で幻。現実とは違う偽りだ。


魅惑的な匂いで虫を誘い、じわじわと食らう食虫花のように。


「あれが常世島だ」


浄火の視線の先には、平たくて長い、わりと大きな島があった。


あの大きさなら、それなりの人口が住めるだろう。


でも緑が見えない。ほとんど岩ばかりの島なのか、全体がくすんだ灰色をしている。


それにしても・・・


見たところ、本当にたいした距離とは思えないんだけどな。


遠泳が得意な人なら、その気になれば泳いで渡れそうなくらい。


こんな近くに見えている物に、絶対に手が届かないなんて。


・・・残酷だな。島の人たちは、ずっとそんな生活を強いられてきたんだ。


誰も、なにも悪くないのに。