音もなく近づく相手に、お岩さんも浄火も気がつかない。
「危ない! 後ろ!」
あたしの叫び声にふたりが振り向いた時には、もう遅かった。
敵は浄火の胸元へと、長い黒髪をなびかせてまっしぐらに襲い掛かる。
「うわっ!?」
「浄火!」
浄火が・・・やられる!
あたしは浄火に向かって手を伸ばし、必死に意識を集中した。
待ってて! 今すぐ滅火の力を発動して助けるから!
「今すぐ助け・・・!」
「あぶっねーなー! いきなり飛びついてくんなよー! お前はー!」
「・・・・・・はい?」
襲われてるくせして、緊迫感まったくゼロの浄火の声。
見れば敵は、浄火の胸元にベタッとくっ付いて、甘えるように顔を擦り付けている。
浄火は大型犬に抱き付かれたみたいな笑顔で、敵の頭をわしわしと撫でていた。
・・・・・・なに?
なんなの? この、実に微笑ましい光景は・・・?
お岩さんも浄火の隣で、この状況をキョトンと見ている。
あたしは人さし指で敵を指しながら、恐る恐る浄火に質問した。
「浄火、それ・・・・・・なに?」
「ああ、こいつはヘビ女だ」
「ヘビおんな?」
「この宝船の、まあ、ヌシみたいなもんだな」
主? こいつが、この船の主?


