「岩!」
セバスチャンさんは、なおも諦めない。
お岩さんに向かい、手を伸べながら追いかけてくる。
でも彼の懸命の努力も虚しく、その姿はどんどん小さくなっていった。
「岩! 岩! 岩ぁーーー!」
叫び声も、小さくなる。
お岩さんは泣き声を漏らしながら、セバスチャンさんを見つめるだけだった。
セバスチャンさんは、どんな思いでお岩さんを追いかけているのだろう。
それは妹への親愛なのだろうか?
それとも・・・・・・?
その気持ちを問いただす事すら、今は叶わない。
お岩さんはどんな思いで、自分の名を呼ぶ彼の声を聞いているのだろうか。
その胸中を思うと、あたしの胸も掻きむしられるように切ない。
やがてセバスチャンさんの姿は遠ざかり、完全に視界から消え去ってしまった。
「うぅ・・・遥峰ぇ・・・」
お岩さんがあたしに抱き付いてきて、辛そうにしゃくりあげる。
あたしも一緒に涙ぐみながら、ふと、思い出した。
門川君・・・。
セバスチャンさんの姿と、あの時の門川君の姿が重なる。
遠ざかる牛車の窓から見た、小さくなっていく彼の姿。
追いすがるように走っていた、あの懸命なまなざし。


