神様修行はじめます! 其の四


「岩!」


セバスチャンさんは、なおも諦めない。


お岩さんに向かい、手を伸べながら追いかけてくる。


でも彼の懸命の努力も虚しく、その姿はどんどん小さくなっていった。


「岩! 岩! 岩ぁーーー!」


叫び声も、小さくなる。


お岩さんは泣き声を漏らしながら、セバスチャンさんを見つめるだけだった。


セバスチャンさんは、どんな思いでお岩さんを追いかけているのだろう。


それは妹への親愛なのだろうか?


それとも・・・・・・?


その気持ちを問いただす事すら、今は叶わない。


お岩さんはどんな思いで、自分の名を呼ぶ彼の声を聞いているのだろうか。


その胸中を思うと、あたしの胸も掻きむしられるように切ない。


やがてセバスチャンさんの姿は遠ざかり、完全に視界から消え去ってしまった。


「うぅ・・・遥峰ぇ・・・」


お岩さんがあたしに抱き付いてきて、辛そうにしゃくりあげる。


あたしも一緒に涙ぐみながら、ふと、思い出した。


門川君・・・。


セバスチャンさんの姿と、あの時の門川君の姿が重なる。


遠ざかる牛車の窓から見た、小さくなっていく彼の姿。


追いすがるように走っていた、あの懸命なまなざし。