「おい、せっかくオレが渡した手みやげの茶碗、割ったのかよ。あの男」
浄火があたしの隣に立ち、顔を覗き込んでくる。
「意外と失礼なヤツなんだな。あのメガネ当主」
「・・・・・・・・・・・・」
浄火の声は聞こえているけど、耳の奥まで届かなかった。
あたしは上の空で返事もせずにボウッと突っ立ったまま。
目は浄火の姿を映していても、心は完全に門川君の姿を追っている。
そんな『心ここにあらず』の様子を探るように見ていた浄火が、不意にあたしの手をギュッとつかんだ。
その力の強さにハッとして、あたしはようやく目の前の浄火の顔を見る。
「さあ、ぐずぐすしないで島へ行くぞ。里緒」
「あ・・・・・・」
「早くしないと子作りマシーンが船で帰っちまうぜ? やるなら今しかない」
そうだ。船を手に入れるのは今しかない。
今を逃せば二度と島へは渡れないだろう。
あたしは門川君への思いと、自分の置かれた現状に心が乱れた。


