「届かぬのじゃ」
「は? 届かない?」
「どれだけ船で進もうとも、空を飛ぼうとも、永遠に島までたどり着かぬのじゃよ」
絹糸の黒く丸い目と、あたしのキョトンと丸く見開いた目が合った。
・・・いくら進んでも、たどり着かない? 永遠に?
意味が分かんないんだけど。
「小娘、現世で『蜃気楼』や『逃げ水』という言葉を聞いたことはないか?」
「ある。目の前に建物や水たまりが見えているのに、どこまで行ってもたどり着かない現象だよね?」
「それと同じと考えても良い。それが常世・・・つまり、『海のかなた』の意味じゃ」
「・・・・・・・・・・・・」
「島までの空間も、海の水も、なにもかもが完全に狂っておるんじゃよ。じゃから永遠に島へは行けぬ」


