いっそ知らない、まま、に・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
だから・・・彼は守りたかったんだ。
なんとか、少しでもお岩さんの受ける傷を軽く済ませようと。
だから、だからセバスチャンさんは・・・・・・。
キッチリと後ろで結わえられている黒髪の、あの後ろ姿を思い出す。
お岩さんから遠ざかりながら、どんな思いでいたのだろうか。
いつもいつも、誰にも本音を語ろうとしない彼は。
・・・どうしてなんだろう?
どうしていつもいつも、このふたりはこんなにも苦しむんだろう?
「わたくしの・・・父が・・・」
青白い顔のお岩さんの唇が、小さく動く。
「父が、セバスチャンの母親と通じていたと・・・?」
ぷるぷると小刻みに、その頭が左右に動いた。
「そんなこと、ありえませんわ。だって父は、わたくしを、家族を裏切ったりしないもの」
「岩よ、酷な言葉じゃが・・・人の心も一生も、一面だけでは語られぬ」
「・・・・・・・・・・・・」
「お前の父にも、父親以外の面があった。ということであろうよ」
お岩さんは世にも悲壮な顔で、絹糸の言葉を聞いている。
そして、もう限界のようにヘタンと尻もちをついてしまった。
魂が抜けたように虚ろな目をして、ブツブツと繰り返す。


