一瞬沈黙して、ババは絹糸に向かって話しかけた。
「この娘は、いつもこんな調子なのか?」
「ふむ。小娘が人の話を聞かぬ、という点については間違いない」
「ちょっと絹糸! どっちの味方してんの!?」
「それで? お前今度はいったい、何をたくらんでおる?」
絹糸がのんびりと、後ろ足でカリカリ耳の後ろを掻く。
そして細く鋭い金色の目で、ババをジットリと見上げた。
「お前が絡んでおるなら、どうせ腹に一物あるのであろう? 信子(のぶこ)よ」
ババが、ふふっと含み笑いをする。
両の大きな目が、ニンマリ笑って絹糸を見返した。
「言っている意味が、まるで分からぬ」
「タヌキよのぉ・・・・・・」
「猫にタヌキ呼ばわりされる覚えは、ないが?」
「独り言じゃ。さて、小娘は我が連れて行くとしよう。信子、お前は先に戻っておれ」
えっ!? つ、連れて行く!?
絹糸、あたしを大広間に連れて行っちゃう気なのぉ!?
あたしは驚いて絹糸を見下ろした。
凍雨くんもビックリした顔で頭を上げ、慌ててまた平伏する。
「そうか。急げよ、絹糸」
ババはそう言って、あたしの方を見もせずに足早に去って行った。
お供の女性と術師たちがその後に続く。
それを見送り、一行が廊下の角を曲がり、姿が見えなくなった時点で・・・
「「・・・なんで!?」」
あたしと凍雨くんが、同時に絹糸に噛みついた。
ひどいじゃん! なにアッサリ白旗上げてんの!?


