少しの間ためらって、あたしはお岩さんの後を追った。
そっとしておく方がいいのかと一瞬考えたけれど。
でもやっぱりこのまま見過ごせないよ! ほっとけない!
「しま子、ついておいで! お岩さんを追いかけなきゃ!」
走りながら後ろを振り返り、しま子に叫んだ。
呼ばれたしま子が慌ててドスドスついて来る。
視界の向こうに、セバスチャンさんの後ろ姿が見えた。
いつも通りの背筋の伸びた背中からは、彼の心中はやっぱり読み取れない。
あの人は・・・いつも、自分の素顔をさらさないんだ・・・。
あたしは視線を前に戻し、必死に走った。
ドレスのすそを抱えあげて、前のめりになって走るお岩さんの姿が見えてきた。
「お岩さん!」
「来ないで!」
鋭い語気に、うっと一瞬ひるんでしまう。
うぅ、やっぱりこんな時は誰とも会いたくないのかな・・・。
でも、 『あ、そう? うん分かったじゃーねー』 とは、いかないでしょ!
ただの失恋とは事情が違うんだから、心配なんだよぉ!
「お岩さん! お願い止まって!」
と叫んだ瞬間、お岩さんがドレスのすそを踏んづけた。
―― ズッザアァァーーーーーッ!!
・・・・・・・・・・・・
あ・・・・・・
あたしとしま子は、口をポカンと開けて思わず立ち止まってしまった。
お、お岩さん・・・転んじゃった・・・・・・。


