お岩さんもセバスチャンさんも、何も言わずに沈黙だけが流れていく。
その沈黙が、あたしにとっては死ぬほど気まずい。
いかにして、さり気なくここから立ち去ろうかと頭の中はそればっかり。
ふたりの顔色を伺いながら、足の指をジリジリ動かし、移動に備えてウォーミングアップする。
熟したトマトのお岩さんとは違い、さすがセバスチャンさんは冷静だった。
というより、むしろ・・・険しい表情?
眉を寄せながらお岩さんをじっと見つめていた。
その表情を見上げるあたしの胸に、黒い雲のような悪い予感が立ち込める。
だってセバスチャンさんの様子は・・・
どうひいき目に見ても、この告白を喜んでいるようには見えない。
いや、それどころかむしろ・・・。
―― くるり・・・
お岩さんの視線を断ち切るように、不意にセバスチャンさんが背中を向ける。
そして無言のままでスタスタと、もと来た道を戻り始めた。
それを見て、あたしはすっかり動転してしまう。
ち、ちょっと、行っちゃうの? なにも言わないで?
お岩さんをこのままの状態で、ほったらかしにして行っちゃうつもり?
それはいくらなんでも、あんまりじゃない?
お岩さんの顔から、あれほどの赤味がほんの一瞬で引いていく。
ピクリとも動かなかった表情が歪み始め、泣きそうになった。
黙っていられず、あたしはセバスチャンさんに声をかける。
「ねえセバスチャンさ・・・!」
「ジュエル様、皿を割るだけ割って頭を冷やしたら、すぐに部屋へお戻りください」
振り返りもせず、セバスチャンさんはいつもの落ち着いた低い声で言う。
「成重様が・・・あなた様の婿が待っておりますので」


