神様修行はじめます! 其の四


お岩さんもセバスチャンさんも、何も言わずに沈黙だけが流れていく。


その沈黙が、あたしにとっては死ぬほど気まずい。


いかにして、さり気なくここから立ち去ろうかと頭の中はそればっかり。


ふたりの顔色を伺いながら、足の指をジリジリ動かし、移動に備えてウォーミングアップする。



熟したトマトのお岩さんとは違い、さすがセバスチャンさんは冷静だった。


というより、むしろ・・・険しい表情?


眉を寄せながらお岩さんをじっと見つめていた。


その表情を見上げるあたしの胸に、黒い雲のような悪い予感が立ち込める。



だってセバスチャンさんの様子は・・・


どうひいき目に見ても、この告白を喜んでいるようには見えない。


いや、それどころかむしろ・・・。



―― くるり・・・


お岩さんの視線を断ち切るように、不意にセバスチャンさんが背中を向ける。


そして無言のままでスタスタと、もと来た道を戻り始めた。


それを見て、あたしはすっかり動転してしまう。



ち、ちょっと、行っちゃうの? なにも言わないで?


お岩さんをこのままの状態で、ほったらかしにして行っちゃうつもり?


それはいくらなんでも、あんまりじゃない?



お岩さんの顔から、あれほどの赤味がほんの一瞬で引いていく。


ピクリとも動かなかった表情が歪み始め、泣きそうになった。


黙っていられず、あたしはセバスチャンさんに声をかける。



「ねえセバスチャンさ・・・!」


「ジュエル様、皿を割るだけ割って頭を冷やしたら、すぐに部屋へお戻りください」


振り返りもせず、セバスチャンさんはいつもの落ち着いた低い声で言う。


「成重様が・・・あなた様の婿が待っておりますので」