さしものセバスチャンさんの綺麗な姿勢も、畳の上に崩れ落ちる。
お岩さんは容赦なく、両腕で彼の体をめちゃめちゃに殴り続けた。
「あんたは! あんたは! あんたは!」
制御不能のロボットみたいに、連続で殴打しながら怒鳴っている。
「そんなに・・・あたしを他の誰かと結婚させたいの!?」
あたしも、成重さんも、浄火も、しま子も。
全員、目の前のこの状況についていけない。
なんの反応もできず、目を丸くしてポカンと見守っているだけだ。
セバスチャンさんも、抵抗もせずに黙って殴られ続けている。
お岩さんは彼の黒いアスコットタイを鷲づかみにし、力任せにグィッと引き寄せた。
そして彼の顔に向かって、ツバと怒声を浴びせかける。
「あたしは絶対に、死んでも、誰とも結婚なんかしないからね!・・・分かったかあぁぁー!」
無抵抗のセバスチャンさんを畳に叩き付け、お岩さんは部屋を飛び出した。
韋駄天走りに廊下の向こうに走り去る。
あたしは口を開けたまま、その後ろ姿をぼう然と見送った。
・・・・・・・・・・・・。
そう・・・・・・・・・だよね。
うん、そうだよ。これがお岩さんだよ。
不幸な境遇に、身も世も無く泣き崩れるだけの、哀れな女。
そーんなキャラじゃないんだよね。あの人。


