神様修行はじめます! 其の四


あなたたちの頭の中に、少しでもあるの?


暗い押し入れの中で泣いている、お岩さんの涙のことが。


里の当主として、不本意な結婚を受け入れるしかない、哀れな彼女のことを・・・。



―― バーーーーーンッ!


鼓膜をつんざく鋭い音がして、押し入れの戸が開いた。


そして中からお岩さんが飛び出してくる。



あぁ、お岩さん可哀そうに。さぞ悲しみに泣き濡れているだろう。


・・・と、胸を突かれる思いで彼女の顔を見たあたしは・・・


ギョッとして固まった。



泣くどころか・・・。


お岩さんの顔は怒りで真っ赤に染まり、般若のお面のように変貌していた。



「はぁるぅみぃねぇぇぇーーー!」


般若の絶叫。まさに、鬼女。


源氏物語に出てくる怨霊の『六条御息所』ってこんな顔!?


うわー、お願い迷わず成仏して!


『お岩さん』ってだけで充分怪談なのに、このうえ六条御息所にまで出てこられたら・・・


もう、最凶! 打つ手なし!



お岩さんは鬼の形相で大きく右手を振り上げ、反動をつけて振り下ろす。


まるでピッチャーの投球フォームを見ているようだ。


そして加速のついた右半身全体で、セバスチャンさんの頬を思いっ切り張り飛ばした。


―― バッシィィーーーン!


う、うわ! あれ、ぜったい痛い!