「最悪の事態は、ジュエル様のご結婚ではありません。この里が長老に乗っ取られることなのです」
「・・・・・・!」
「この里を守る。それが、わたくしめの真の使命にございます」
「そ・・・れは・・・」
「わたくしめは、決してジュエル様個人の執事ではございません。権田原一族の、参謀なのです」
「それは、その通りなんだろうけど・・・」
あたしは二の句が継げなかった。
パクパクと口を開け閉めしながら、信じられない思いでセバスチャンさんを凝視する。
たとえそれが事実でも、だからって、そんな・・・
そんなセリフを、あなたいま、言うの?
お岩さんが聞いてる、いま、ここで・・・。
「成重さま。ことは一刻を争います。迅速に水面下で動かねばなりません」
「そうだね。私もできるだけ、裏から手を回そう」
そんな計算高いセリフが、ふたりの口からポンポン飛び出てくる。
里を守らなければならない参謀。
権田原での明確な地位を手に入れたがっている、父親に冷遇され続けてきた旧友。
・・・手を結ぶのが妥当だろう。
同盟を結んで、共通の敵に立ち向かうことが今、必要なんだろう。
だけど・・・だけど・・・。
セバスチャンさん。
怖いほど優秀で、冷たいほど美しい顔立ちの男。
敵に回せば怖い相手になるだろうと、これまで何度も思い知らされた。
それでもこの人は、頼りになる、大事な仲間だったんだ。
なのに、いま、この人の顔は・・・
あたしにとって見知らぬ他人のように思えてならない。


