「あの、もしさ……」

「え?」


帰り際、玄関で靴を履き終えた真次くんが、言いにくそうに口を開いた。


「もし何かあったら、遠慮しないで来いよな」


ぶっきらぼうに、ボソリと呟く。


「うん、ありがとう。そうする」


なんだ、けっこう良いヤツじゃない。


私は、自分を気遣う言葉を嬉しく感じた。

真次くんとは、何だか仲良くなれそうな気がする。


「あのさ」

「はい?」

「俺は先に、戻ってるぞー」


尚も何か言いたそうに玄関に佇む真次くんに、政志さんが幾分からかいを込めた声をかけた。

そのまま手をヒラヒラ振りながら、階段室の方へ歩いて行ってしまう。