視線の先には、大分年季が入った見るからにボロい集合住宅がそびえ立っている。

元はアイボリーだったのだろう。

モルタルの壁は薄茶色にすすけていて、所々細かいひび割れが黒い蜘蛛の巣状に走っていた。

サッシも、アルミ色のシンプルなもので、洒落っ気の欠片もない。


なんだか、がっかり。

もうちょっと、小綺麗なアパートを期待していたんだけどなぁ。


建設会社の現場監督をしている父の仕事の都合で、とある山あいの町に引っ越ししたのは高校2年生の夏休み直前。

社宅として使われている、古ぼけた4階建てのアパートの302号室。

ここが、父・母・娘の私。


3人家族の新しい住まいだった。