はじまりのアリス



なんだよ。これ……。

なんなんだよっ!


矢澤は背が低くて力もか弱い女子だったのに、
噛まれた右足は皮膚がえぐれていて。

そこからドクドクと脈を打つように血が溢れてきた。


「潤、足が……」

「平気だ。大丈夫」

折れてるわけじゃないし、これだったらまだ走れる。

だけど、俺たちの後ろには本棚。


右にはノコギリを持った久米岡。

左には不安定に動く江口。

蹴飛ばした矢澤はもう起き上がっていて。

向かいの本棚の上からは身を乗り出して田上が笑ってる。


……逃げ道がない。

なんとか美織だけでもここから出さないと。


「……っ!」

俺は覚悟を決めて田上がいる本棚を力の限り蹴った。


グラグラと揺れる本棚。田上はバランスを崩してあっち側の通路へと落下。

そして江口の足を掴んで、江口を同じ棚に叩きつけた。


すると本棚はドミノ倒しのように崩れて、江口が重たい本の中に埋まった。

あとふたり……。


――と、次の瞬間。

ブンッ!と風のようなものを感じた。

久米岡のノコギリがスローモーションのように横切ろうとしていて、これは避けられない。

あ、死ぬって思った。