「つまりさ、殺られる前に殺れってことでしょ?」
気づくと日野沢は食堂の厨房の中にいて、ガチャガチャと戸棚を漁っていた。
「あ、やっぱり沢山あるよ。ほら」
そう言って銀色のトレーの中に並べたのは食材を切る包丁。
万能包丁に、刃がギザギザとしている冷凍包丁。
刃が四角形になっている大きな菜切り包丁に、鋭く尖った出刃包丁。そして小さなペティナイフ。
こうして見るとどれも立派な凶器だ。
「美織は使いやすそうなペティナイフがいいんじゃない?」
そう言ってナイフを渡そうとする日野沢の手を俺が止めた。
「美織にそんなもの渡すなよ!」
「ん?なんで?美織が素手で勝てるとは思えないけど?」
「だからさ!なんでお前はそんなに冷静っていうか……そんな平然としてられるんだよ」
正人には悪いけど言わずにはいられない。
田上が拐われた時も江口が西に殺された時も、
日野沢は顔色ひとつ変えなかった。
「うーん。慣れちゃったのかなあ」
「……慣れる?」
ペティナイフをくるくると回しながら、微笑む。
「ほら、私ってサバイバルゲームとかホラーゲームマニアだから。こういう状況って初めてって感じがしないの」
……なんだろ?この感じ。
日野沢の笑顔やその行動が全部嘘に思えてくる。
日野沢は信用できない。
直感でそう思った。