見覚えのある筆跡。

そしてポケットに手を入れると、自分のものではない銀色のサバイバルナイフ。


――『殺して。隣の私を殺して。潤』

そんな声が耳の奥で聞こえてくる。


「ん?どうしたの?」

腕を掴む〝美織〟がニコリと微笑みながら俺を見上げていた。


ざわざわとずっとずっと、なにかがうるさい。


このメモ用紙がどんな意味を持つのかは分からない。

だけど、信じられるものだって。

信じなきゃいけないって俺の全細胞が叫ぶ。



「……美織」

俺は名前を呼んだ。


振り下ろしたのはナイフか、それとも心配するなという言葉の優しさか。


その行方を見守るように、漆黒に浮かび上がる丸い月だけが俺たちをずっと見つめていた――。



【はじまりのアリス 完】