はじまりのアリス




「なにしてるの?早く走ってっ……!」

立ち止まった今村の手を渡辺が引こうとすると、それをパシッと今村が払いのけた。


「あはは、会いたかったよー会いたかったよー」


今村はわけの分からないことを言いながら、その黒い物体に自ら近づいていく。


「今村っ!!」

いくら俺たちが叫んでも、この声は耳に入っていない。


「ねえ、私は悪くないよね?私が悪いんじゃないよね?」

またあの言葉。


黒い物体との距離はわずか数センチ。

その手がゆっくりと今村へと伸びる。


「あはは、あははは」

狂ったように今村の笑い声が響く中、その黒い物体の手を強く掴んだのは今村自身。


「私悪くないもんね?こうしていっつもずっと
一緒にいたもんね?ねえ?恵美?加奈子?」


グチャグチャ……バリ……ベチャ。

肉と骨がちぎれる音。


おそらくアレは理科室で黒焦げになった川島と横田だ。

硫酸をかけられた恨みをはらすように、ふたりは今村の身体をむさぼるように食べていた。


……うっ……。

あまりの光景に俺は吐き気を抑えながら、ひとり残っている渡辺に向かって叫んだ。


「走れ!渡辺!走るんだ……!」