私にできることは、ただ一つ。

何もいわずに、カナちゃんから離れること。

「おかわりもあるから、たくさん食べてね!」

「ん、じゃあおかわり!」

土鍋に入った雑炊をよそい、カナちゃんに渡す。

それを美味しそうに頬張るカナちゃん。

その姿を見るだけで、私はこれからも頑張れるよ。

しばらく3人で楽しく話した。

きっと、話せるのは今日が最後だろうから。

「あ、もうこんな時間かぁ。じゃ、俺は帰るね!」

「あ、大丈夫?体、ダルくない?」

「うん、だいぶ楽になったよ」

「狩那緋くん、無理してない?」

「大丈夫ですよ。お気遣い、ありがとうございます」

「じゃ、近くまで送ってくるね!」

「ええ、気をつけて!」

玄関で靴を履き替え、家を出る。

しばらく歩いたところで、カナちゃんが話しかけてきた。

「ねぇ、にぃ?にぃは、なんで俺と付き合っててくれたの?」

「え?」

あまりにも突然の質問で、頭が真っ白になった。

「ほら、たくさん浮気して、にぃを泣かしてたはずなのに…それでも俺と一緒にいてくれたでしょ?何でなんだろうって…」

「………カナちゃんを愛してたからだよ」

そういうと、カナちゃんは驚いた顔をした。

「例え浮気をしてても、カナちゃんは私に優しくしてくれてた。だから、利用されてるとしても、隣にいたかったの」

「そんなに想ってくれてるにぃを……俺は裏切ったんだね」

「もういいじゃん!過去のことなんだからさ!」

「………にぃ、しつこいかもしれない。けど…もう一度俺たち……」

「やり直すことなんてできないよ」

「にぃ………」

「カナちゃんを嫌いになったわけじゃないよ。むしろ、好き」

「ならっ……!!」

「でもね?」

私は深呼吸をして続けた。

「浮気されるんじゃないか、って不安なの」

「浮気はっ……!!」

「しないって信じてるよ?けどね、やっぱトラウマになっちゃうよ。これは、カナちゃんが悪いとかいうことじゃないの。私の心の問題なの」

うつむいて、何もいわないカナちゃん。

「そんな私といて、カナちゃんが幸せなはずないよ。きっと私は、心のどこかでカナちゃんを疑って過ごすことになる。それが嫌なの。だから戻るなんてできないよ」

「そっ…か………。ごめん、変なこといって」

「ううん、私もごめんね」

「………ここで大丈夫。今日はありがとう。ねぇ、にぃ?」

「ん?」

「幸せになってね」

「……うん。カナちゃんもね!」

私はカナちゃんに背中を向けて、歩き出した。

ポロポロ頬を伝う何かを無視して。

カナちゃん、私気づいてたよ。

最後、カナちゃんが涙をこらえてることに。

カナちゃん、いつか私以外の誰かと

笑顔で幸せになれるはずだよ。

だからもう………さよならしよう。