「いつまで惰眠をむさぼってる気や」
額にぺしっと肉球の感触。
「あ~ん、癒されるう」
腕を伸ばせば、もふもふふわふわの手触り。
「はうう」
ぐいっと引き寄せ、すりすり頬ずり。
「やめっ。くすぐったいやろ」
「鈴ちゃ~ん」
「やめろ言うてんねん」
シャキ―ン。
「いたっ」
激痛に目を開ければ、鈴が鋭い爪をこちらに向けていた。
額に手をやって見れば、じんわり指先に血が付いていた。
「ひどい、鈴ちゃん。可愛いから、すりすりしただけなのに」
「うるさい。うちをそん所そこらの猫と一緒にすんな言うてるやろ。さっさと起きんかい!」
「ははは。すっかり鈴と仲が良いみたいだね、ゆら」
そこに第三者の笑い声。
「あほ、政光。これはうちが世話してやってるだけや」
「ああ、悪い悪い。そうだね。鈴はゆらのお目付け役だった」
それだけで人の心を晴れやかにするような爽やかな声に起き上れば、そこには血が半分だけつながった兄 政光がいた。
「にい……さま……?」
古井戸に落ちたはずだった。
それなのに、なぜ兄がいるのか。
(わたしはまだ、夢の続きを見ているのかも)
気分が重くなるばかりの夢だったけれど、兄が出てきたことで少しは楽しい夢になるのだろうか。
「ゆら。言うとくけど、これ、夢とちゃうで。現実や」
そんなゆらの思考を読んだように鈴が言った。
「古来から、古井戸は異界に通じる道や。そこをちょちょいといじって、この西の丸に繋げたんは、ここにいる水戸のじいさんやで」
「え?」
ゆらは鈴の話の一から十まで意味が分からなかったが、“水戸のじいさん”には反応出来て、鈴が肉球で指し示す方に顔を向けた。
「お、じいさま?」
「久しいの、ゆら。息災で何よりだ」
「ど、どうして、おじいさまがここに?江戸においでになるなんて聞いてませんよ」
「無論、これはごくごく忍びやかな訪問である」
厳かにそう言った“水戸のおじいさま”の言葉を引き継ぐように、政光が優しい眼差しをゆらに向けた。
「ご隠居はね。お前の事を案じて来てくださったのだよ」
「……わたしを?」
「ああ。鈴をお前のもとにやって下さったのも、ご隠居だ」
「えっと、よく話が見えないんですけど」
「そうだね。その為に西の丸に来てもらったんだ。お前ももう、いろいろと知っていい頃だから」
「いろいろ?」
「そう、いろいろだ」
ゆらは政光、“水戸のおじいさま”、鈴の顔を順に見て行った。
「つまり、皆繋がってるってことですか?」
「うわお。ボケのゆらにしては、えらい冴えてるやん!」
「鈴、少し言葉を慎んで」
政光がやんわり諌めると、鈴は不満そうに「はーい」と言って、長い髭をぴくぴく動かした。
どんな仕草も可愛い猫である。
「ゆら、お前の言う通り、ここにいる全員がある一つの事で繋がっている」
政光が淡々と告げることをこれ以上聞くのが怖くなって、ゆらは腰を浮かせた。
「にいさま。わたし、他に用事があるので、その話また後ではいけませんか」
「おすわり、ゆら」
穏やかな中に有無を言わせぬ響きがあり、ゆらは言葉なくまた腰を下ろした。
額にぺしっと肉球の感触。
「あ~ん、癒されるう」
腕を伸ばせば、もふもふふわふわの手触り。
「はうう」
ぐいっと引き寄せ、すりすり頬ずり。
「やめっ。くすぐったいやろ」
「鈴ちゃ~ん」
「やめろ言うてんねん」
シャキ―ン。
「いたっ」
激痛に目を開ければ、鈴が鋭い爪をこちらに向けていた。
額に手をやって見れば、じんわり指先に血が付いていた。
「ひどい、鈴ちゃん。可愛いから、すりすりしただけなのに」
「うるさい。うちをそん所そこらの猫と一緒にすんな言うてるやろ。さっさと起きんかい!」
「ははは。すっかり鈴と仲が良いみたいだね、ゆら」
そこに第三者の笑い声。
「あほ、政光。これはうちが世話してやってるだけや」
「ああ、悪い悪い。そうだね。鈴はゆらのお目付け役だった」
それだけで人の心を晴れやかにするような爽やかな声に起き上れば、そこには血が半分だけつながった兄 政光がいた。
「にい……さま……?」
古井戸に落ちたはずだった。
それなのに、なぜ兄がいるのか。
(わたしはまだ、夢の続きを見ているのかも)
気分が重くなるばかりの夢だったけれど、兄が出てきたことで少しは楽しい夢になるのだろうか。
「ゆら。言うとくけど、これ、夢とちゃうで。現実や」
そんなゆらの思考を読んだように鈴が言った。
「古来から、古井戸は異界に通じる道や。そこをちょちょいといじって、この西の丸に繋げたんは、ここにいる水戸のじいさんやで」
「え?」
ゆらは鈴の話の一から十まで意味が分からなかったが、“水戸のじいさん”には反応出来て、鈴が肉球で指し示す方に顔を向けた。
「お、じいさま?」
「久しいの、ゆら。息災で何よりだ」
「ど、どうして、おじいさまがここに?江戸においでになるなんて聞いてませんよ」
「無論、これはごくごく忍びやかな訪問である」
厳かにそう言った“水戸のおじいさま”の言葉を引き継ぐように、政光が優しい眼差しをゆらに向けた。
「ご隠居はね。お前の事を案じて来てくださったのだよ」
「……わたしを?」
「ああ。鈴をお前のもとにやって下さったのも、ご隠居だ」
「えっと、よく話が見えないんですけど」
「そうだね。その為に西の丸に来てもらったんだ。お前ももう、いろいろと知っていい頃だから」
「いろいろ?」
「そう、いろいろだ」
ゆらは政光、“水戸のおじいさま”、鈴の顔を順に見て行った。
「つまり、皆繋がってるってことですか?」
「うわお。ボケのゆらにしては、えらい冴えてるやん!」
「鈴、少し言葉を慎んで」
政光がやんわり諌めると、鈴は不満そうに「はーい」と言って、長い髭をぴくぴく動かした。
どんな仕草も可愛い猫である。
「ゆら、お前の言う通り、ここにいる全員がある一つの事で繋がっている」
政光が淡々と告げることをこれ以上聞くのが怖くなって、ゆらは腰を浮かせた。
「にいさま。わたし、他に用事があるので、その話また後ではいけませんか」
「おすわり、ゆら」
穏やかな中に有無を言わせぬ響きがあり、ゆらは言葉なくまた腰を下ろした。


