鈴はぴんと長い尻尾を立てて、迷いもせず暗い廊下を歩いていく。
さすが猫の目。
勝手知ったるはずのゆらの方が柱にぶつかりそうになったり、縁を踏み外しそうになったりと危うい。
何度か廊下の角を右へ左と曲がったところで、鈴がふと立ち止まった。
柱の陰に身をひそめるようにしている鈴に追いついたゆらに、「あそこ、誰の部屋?」と訊いた。
「あそこ?」
廊下の先に、ぼんやりとまだ灯りの灯っている部屋があった。
もう誰しもが眠りについている時分だ。
いったい誰が起きているのか。
「あっ」
思わず声を上げて、鈴に「うるさい」とぺしっとはたかれた。
「ご、ごめん」
ゆらはまた肉球の感触に口元を緩めながら、極力声を落として答えた。
「御台さまのお部屋だ」
ゆらと御台所の部屋は大奥の端と端くらいに離れている。
御台所に呼ばれて伺候する以外は近寄らない区域だけに、ゆらにはあまり馴染みのない場所だった。
そんなところまで来てしまっていたのか。
「ふうん。……御台さまて、誰や」
「え?父上の奥さん……だよ」
「ああ、ゆらの母親か」
「ふふ。違う違う。わたしのかあさまは別の人よ」
「ふん」
鈴は鼻を鳴らすと、てちてちと前足を舐めた。
「鈴ちゃん?」
「ここやないな」
「なにが?」
「いや、ここも少しはあるけど、もっと強烈なんがいてる」
「だから、な・に・が」
「あっちや」
言ったかと思うと、もう鈴は歩き出していた。
ゆらはどうにも一歩遅れてしまう。
この時間まで明かりのついている御台所の部屋が気になりながらも、鈴のあとを急いで追った。
さすが猫の目。
勝手知ったるはずのゆらの方が柱にぶつかりそうになったり、縁を踏み外しそうになったりと危うい。
何度か廊下の角を右へ左と曲がったところで、鈴がふと立ち止まった。
柱の陰に身をひそめるようにしている鈴に追いついたゆらに、「あそこ、誰の部屋?」と訊いた。
「あそこ?」
廊下の先に、ぼんやりとまだ灯りの灯っている部屋があった。
もう誰しもが眠りについている時分だ。
いったい誰が起きているのか。
「あっ」
思わず声を上げて、鈴に「うるさい」とぺしっとはたかれた。
「ご、ごめん」
ゆらはまた肉球の感触に口元を緩めながら、極力声を落として答えた。
「御台さまのお部屋だ」
ゆらと御台所の部屋は大奥の端と端くらいに離れている。
御台所に呼ばれて伺候する以外は近寄らない区域だけに、ゆらにはあまり馴染みのない場所だった。
そんなところまで来てしまっていたのか。
「ふうん。……御台さまて、誰や」
「え?父上の奥さん……だよ」
「ああ、ゆらの母親か」
「ふふ。違う違う。わたしのかあさまは別の人よ」
「ふん」
鈴は鼻を鳴らすと、てちてちと前足を舐めた。
「鈴ちゃん?」
「ここやないな」
「なにが?」
「いや、ここも少しはあるけど、もっと強烈なんがいてる」
「だから、な・に・が」
「あっちや」
言ったかと思うと、もう鈴は歩き出していた。
ゆらはどうにも一歩遅れてしまう。
この時間まで明かりのついている御台所の部屋が気になりながらも、鈴のあとを急いで追った。


