姫恋華〜ひめれんげ〜【改稿版】

「分かった」

 新之助の手首を掴む力がふっとゆるんだ。

「そうか……」

 妙にほっとした様子で声を出した久賀が刀の柄(つか)から手を放すのを目の端で捉えた。

 どうやら新之助が断ったと同時に斬り捨てる心づもりだったらしい。

 そのように支持を受けていたのかも知れない。

 となれば、こうして用心棒として集めた浪人者をいずれは“志士”として使う算段だったのか。

 憶測ばかりが広がるが、それは久賀とて知らぬことだろう。

(鍵はその用人か……)

 新之助が調べるべき事案がまた一つ増えてしまった。

 いや二つか。

 久賀が来る前に感じた気配。

 あれはきっと妖(あやかし)だ。

(これは、とんでもない場所に入り込んでしまったらしい)

 新之助は改めて内偵と言う役目を重く感じ、伯父である近藤の言った“真相”というものが得体の知れない闇を背負っているような気がしてならなかった。

(だけど、そうだ)

 久賀の言うように、いつ果てても悔いのない己(おの)が身だ。

 新之助は一緒に夜廻りをすると言ってきかない久賀について歩き出しながら、命を手放すことに微塵も恐れを抱かなくなってしまった自分をまるで別の人間のように感じていた。