【瞬介】

「と、とりあえず。普通になりきれば良いんだよな」

家のドアの前で立ち止まっている俺は、アイドル女……じゃなくて、千花になりきらないといけないという問題と向き合っていた。

「普通に、普通にと」

呪文を唱えながらドアを開ける。

「ひろっ!ってそこじゃないか…」

ほんとに大きい家だな、千花の親って普段何の仕事してんだよ。

「さっきメールで、俺の住んでるマンションも大きいって言ってたけど、あんの普通だし」

靴を脱いだ時、隣に一つヒールの高い靴が置かれていた。

「そうかお姉さん居るのか。てか、何て呼べばいいんだ?」

メールには、『お姉ちゃん』って書いてあったから、お姉ちゃんでいいのか?

千花から家の中の部屋とかのメモは貰っているから、だいたいは分かるけど。

「居るとすれば、リビングだよな」

そこへ向かおうとした時、前の方から誰かが来るのが分った。