と、とにかくもう、今日は帰ろう。

頭の中がどうにもこうにも整理出来ないや。

あの雨の日から、私は子どもの幽霊が見えるようになってしまった。

びっくりしたけど、イクラは……今のところ害は無さそうなんだよね。


西日がまだ残る廊下を歩き、職員室へ鍵を返しに向かう。三年生の靴箱が並ぶ中央玄関を通り過ぎながら、どこかにイクラがいるんじゃないかと思わずキョロキョロしてしまう。


私の他に、―― 誰かイクラの事が見える人っているのかな。

とにかくイクラがいることは確かだ。

……幽霊だけど。

次はいつ会えるんだろう。どんなタイミングで出てきたりするのかな。


そんなことをぼんやり考えながら歩いていると、靴箱にもたれて腕を組む人影を見つけた。


あれ、―――??

……藤木くんっ??


私ったらもう……イクラのおかげですっかり藤木くんのことは忘れていたよ。


いやいや、――― って、何でここにいるんだろ?

今、帰りなのかな。誰かを待ってるとか??


どうしよう……声、かける、べき??



今度会った時はさらっと笑顔を返そう、なんて調子の良いことを考えていたのにもかかわらず。


ガチャリと落とした、美術室の鍵。


「……っ」


誰もいない静かな廊下に、私の落とした鍵の音だけが響いた。


「入江、――??」


藤木くんがゆっくりと振り返る。


今、私の名前、呼ばれたよね……。