『みこと、おえかき、じょうずだねえ』
「えっ??」
イクラって……いつからここにいたんだろう。
『イクラもおえかきしたいけど』
「……お、おえかき??」
『だけど、できないのよ』
「そうなの……?」
『そっ。イクラはね、みてるだけしかね、できないんだよー』
「へえ……」
幽霊って、――― そうなの??
『そうなのよう』
頭の中の私の声を聞き取ったのか、イクラはちょっと口をとがらせる。
『みーことー』
無邪気なその姿にだいぶ慣れてきたっていうか……。幽霊というものをすんなりと受け入れている自分にもまたびっくりなんだけど。
「あっ」
そ、そうだっ、――。
イクラに聞きたいことがあったんだ。
「ねえねえ、イクラってさ、いったいどこから出てくるのっ??」
そうよ、こんな突然、現れたり、消えたり……っていうか、いない時はどこに行ってるんだろう。
『わかんないよ?』
「わかんない?? そ、そっか……」
ううっ、わかんないのか……。
じゃあ何で私にだけ見えるのかなんて、わかんないだろうなあ。
「あれ……」
この匂い……。
――桜、なのかな?
油絵具や薬品の匂いが混じり合う美術室ではありえない、少しだけ甘い花の香り。
「……えっ」
ふと目を離した隙にイクラはいなくなっていた。
「イクラっ??」
ど、何処行っちゃったの??
――――。
しんと静まった教室。
私は一人で佇んでいた。

