今宵、桜の木の下で


だって、―― ほんとにわかんないんだもん。

踏み込む勇気なんて、最初から持ち合わせていない。

ただ、気付いたら目で追いかけてた。

グラウンドを走る姿が格好良くて。

竹刀を構える姿が凛々しくて。


ただ見てるだけで、十分、満足だったんだもん。


だけど、―――。

あの日、「入江、ずっとここにいたの?」って、私のことを知ってくれていたから。

それだけで、嬉しかったの。

ただでさえ、昨日から藤木くんのことを考えてばかりいる。

そんな自分に、慣れなくて……。

人を好きになるってこういう事なのかな。


「今日は? 今日も藤木と帰んの?」

「んなわけ、ないじゃんっ」


真っ赤になって仰け反る私に、瑛理奈は呆れたような視線を向けて足を止める。


「私ね、―― 今日、用事があるから早く帰るけど。
藤木から誘われても断んないのよ。
でね、昨日はメール出来なくてごめんね、ぐらい言うのよっ」

「う……」

「あー美琴……言えなさそうだな」

「無理だよう」

「じゃあさ、一緒に帰れるように祈っとくから、ねっ??」

「……」


残念ながら、―――。


18時を過ぎても藤木くんからの連絡はなかった。


当然だよね……瀬能さん、いるんだし。

あーあ。私、何、期待してたんだろ。

あー、もう、馬鹿だ……。


今度、また偶然、――――

顔を合わせたとしても、さらっと笑えるようになっとかないと。


いやいや、これもやっぱり自意識過剰だよね。