今宵、桜の木の下で


教室の時計が8時20分を指していた。

朝のショートホームルームが始まるまで、あと5分。廊下で喋っていたクラスメート達も教室の中へと戻って行く。


「美琴来る前にちょっと調べたんだけど」


―――――??


「特定の子いないらしいよ??」

「はっ??」

「藤木だよ。多分、今、フリーじゃないかってこと」


いやいや、―― 。


「調べたって、――― もう。だって……二組の瀬能さん。
……付き合ってるって聞いたことあるよ」


瀬能さんは学年でトップ3に入るといわれているくらい綺麗な女の子だ。


「いつの話よ??」

「いつって……もう忘れたっ」


放課後、――

何度か武道場に足を運ぶ瀬能さんの姿を見かけたことがあった。

入り口で二人で話す姿はすごくお似合いで。

うん、ああいうのをお似合いっていうんだよ、きっと。


「瑛理奈」

「ん?」

「アドレス交換したら、メールするものなの?」

「へ??」


私は昨日迷った挙句にメール出来なかったことを話した。


「何て書いたらいいのか、わかんなくて……」

「そんなの、今日はありがとう、でいいじゃん。返事がきたら今度はそれに合わせればいいんだし」

「……返事が来なかったら?」

「……っ」


一瞬、目を見開いて、―― 刹那、笑いに変わる。


「美琴、考えすぎだって。もう、可愛いなあ」

「だって……」


恥ずかしくなって俯く私の腕を取り、瑛理奈は教室へと引っ張っていく。