「じゃあ、付き合ってるとかじゃないの?」
「そんなわけ、――― たまたまよ、たまたまっ」
「なーんだあっ。ウチんちさ、昨日は美琴と藤木の話題ですんごい盛り上がってたんだよ」
「何それ……」
「春登くんと美琴ちゃんって付き合ってるんだね、とかオカンが言うからさ」
「もう、そんなわけないじゃん」
「だよね、だよね、――。
あのコミュ症の美琴に彼氏だなんてありえないって言ってるのにオカンが全然引かないからさあ」
「こ、コミュ症……」
―― まあ確かにそうなんだけど。
何気に傷つく乙女心……。
「だって美琴が男子と喋ってるなんて、そうそうないよ??」
「う、うん……」
「相手が藤木とか、私、聞いてないんだけど、―― ってね」
容赦なく畳み掛けてくる瑛理奈に壁に追いやられ、いつの間にか逃げ場を失くす。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って……」
そっとその肩に手を置いて押し返し
「だから違うってば」
ほんの少し距離を開けることに成功した。
「え、―― でも美琴は藤木のこと、好きなんでしょう?」
「へっ??」
私の小さな抵抗をもろともせず、瑛理奈はさらにぐっと間を詰めてくる。
「隠さなくってもわかってるって。いつも目で追っかけてるもんね、藤木のこと」
「いや、あのっ……」
「あの絵のモデルも実は藤木でしょ?
相談してくれるかと思って待ってたのになあ。なかなか言ってくれないんだもん」

