今宵、桜の木の下で


「顔、赤くなってる」

すっと私の頭にそっと乗せられた、藤木くんの大きな手のひら。

「えっ」

足を一歩踏み出したまま固まる、私。


「あの雨の日も赤くなってたよね」

「……っ」

「ちょ、固まんないでよ」


その手は下ろされ、藤木くんは焦ったように私の顔を覗き込む。


「ごめん、俺なんか悪いこと言った??」

「あ、いや、……そうじゃなくてっ」


ビクンと委縮した私に藤木くんは驚いたようだった。


でもさ、――

藤木くんにとっては何でもないことなのかもしれないけれど。


「そう構えないで……ほしいな、なんて」


……それは、無理。

いっそのこともう、ここから走って逃げ出したいくらいだもん。


「入江のこと、―― 何か気になるんだよね。
いきなりこんなこと言ったって、信じらんないと思うけど」

「し、信じらんないって、いうか……」

「もう少し話してみたいっていうか、うーん。
今日入江が武道場に体操服持って来たじゃん??」

「……うん」

「何ていうのかな、――。
このままここで終わってしまうのが嫌だなって思ったっていうか……」

「……え?」

「とにかく入江と、―― もう少し話をしてみたいと思ったんだ。今、引き止めなきゃ、一生後悔するんじゃないかって」


一生、――

後悔、――――??


藤木くんが、――――??


私はこの夢のような状況に、正直戸惑いを隠せないでいた。