「ほんと……バカ」

渚に突っぱねられたことが悔しくてかなしくて。たぶん自分が思う以上にしょんぼりしながらその場に立っていると、七瀬がくすりと笑った。

「……何、七瀬くん」

渚に100%気を許してもらっているであろう七瀬のことが妬ましくて、今日の事情を知っているであろう七瀬につい喧嘩腰に言うと、七瀬はますます笑いながら言った。


「あーあ。どうやら俺の敗戦が濃厚になってきたな。……崎谷さんのその表情見てれば一発で分かるよ」
「は?」

どこか切なげにも見える笑みを浮かべたまま、七瀬はなだめるようにあたしに言う。


「俺もね、あんな大人げない渚、久しぶりに見たよ。よっぽど負けたことが悔しかったんだろうね。それに何よりカッコ悪い負け犬姿を崎谷さんに見られてしまって、あれで結構落ち込んでるんだよ」

「……ほんと意味わからない。今日何があったのか、どうしてもおしえてくれないの?」
「じゃあ俺が話したことは秘密にしてね?……渚はさ、愛さんお墨付きの『最強の助っ人』って人を口説き落そうとしてるんだよ」

「助っ人?」
「崎谷さんのために力になってくれる人のことだよ」

愛さんが認めるほどの人?

「………そんな人、思い当たらないんだけど………」
「でもいるんだ。崎谷さんが忘れているだけじゃない?」

七瀬の言葉に、あたしはますます意味が分からなくなる。そんなあたしに、七瀬は意味深な言葉を残して水原家を出て行った。


「これ以上はまだおしえられないけど。でも今渚がなりふり構わず崎谷さんの力になろうとしていることは、いずれ崎谷さんにもちゃんと分かる日が来るよ」