「あっ、もうすぐお昼だね。仁花ちゃんもお腹すいたでしょ、ごはんにしよ。姉貴が朝、昼食用にサンドイッチ作っておいてくれたんだ」
「中身はちんこ生えてないだけのオスなんだけどね、ねーちゃんのそういう手際だけはマジありがたいよなー」

二人はそういってゲームを片付けると、台所に向かう。


「あ、あの。寝坊してすみません。あたしも手伝います」

「いいのいいの、仁花ちゃんは座っててよ。美人はいるだけで周囲の野郎をしあわせな気分にするっていう超偉大な仕事を果たしてるから、これ以上は何もしなくて全然へいき!」
「……こら、哉。あんまそういうことばっか言ってると、仁花ちゃん困るだろ。………そうだ、仁花ちゃん。親父呼んで来てもらってもいいかな?」

荒野さんに訊かれて、あたしは一瞬返答に詰まる。

「お父さん………?」

「今日の明け方、姉貴と入れ替わりに帰ってきたんだ。それまで商店街の組合員さんたちが帰してくれなかったみたいでねぇ。……玄関脇にある小部屋、親父の書斎なんだ。籠ってるからお昼だって声掛けてくれたらうれしいな」
「あ、はい。わかりました」

お家に厄介になっているというのに、なにもお手伝い出来ないのは申し訳ないから、ちょっとのことでも用事を頼まれるのは有難かった。あたしは哉人くんたちのお父さんを呼びに行こうとして、ふと気づいた。

「あの。………そういえば、渚は………?」

渚の姿も気配も、あたしが起きた時からこの家にはもうなかった。

「あー渚?薄情だよねー。仁花ちゃんのことは『俺が守るから余計な手出しすんな!』とかってオレのこと牽制してきたくせにさー、今朝早く、仁花ちゃん置いて由太と一緒にどっか遊びに出掛けちゃったんだよねぇ。あ、でもあんなへぼいなくてもオレが守るから心配ないよん!オレ仁花ちゃんのナイトですから!」

「こら、哉人。渚が遊びに行ったって決めつけるなって。至急の用事だって言ってただろ」
「でもなんの用事だって言っていかないなんて、なんかあやしいじゃん?」


--------渚と、七瀬由太が一緒に出掛けた?