【夕日とつないだ手】



「おばちゃん。店にある中で一番安いサンダル、二つ出してくんねぇ?」


下町風情の残る三条駅に降りると、あたしの手を引いた渚は真っ先に駅前の商店街にある『履物屋 鈴木』という古びたちいさな店に入っていった。

店主らしいおばさんは店の奥から出てくると、「あら渚ちゃんじゃないの」と破顔して気安く渚に話し掛けてくる。どうやら渚とは顔馴染みらしい。


「……嫌がらせ?もういい加減、渚ちゃんってのはやめてくれよ」
「はいはいもう高校生だっけ?早いわねぇ。昔は女の子みたいに可愛かったのに、もうこんな一丁前に女の子なんか連れて歩いちゃって………」


和やかに喋っていたおばさんは、あたしと渚を見て絶句した。


「……どうしたんだい、何かあったのかい」


おばさんが驚いて聞くのも無理はない。ふたりとも靴を履いてなくて、おまけにあたしはひと目で直前まで泣いていたことが丸分かりな腫れぼったい目になってるのだから。

あたしは何て返せばいいのか分からなくてぎゅっと体を縮ませる。すると渚はあたしの肩をぽんと叩いていきなり「こいつ、すげぇ美人だろ」などと自慢めいた口調で言い出す。

おばさんはびっくりした顔をしつつも、接客業の愛想の良さでか、「まあ……たしかにね。そこらのアイドルよりも別嬪さんよねぇ」と受け合ってくる。


「だろ。あんまこいつ可愛いすぎるから、陰湿なブス共に僻まれて靴隠されたんだよ。クソ幼稚なイジメだろ?」
「まあそれはそれは。………でも、じゃあなんで渚ちゃんまで靴がないのよ?」


すこしだけ不審そうな顔をするおばさんに、渚は馬鹿みたいなことを堂々と言う。


「そんなん決まってんだろ。カノジョが可愛すぎて野郎どもに僻まれたんだよ。それで嫌がらせに穿いてた靴、捨てられた」


真顔で返す渚に、おばさんはぽかんとした後。肩を震わせて豪快に笑いだした。