「ニカ」
「崎谷さん」


重い瞼をおそるおそる持ち上げると、同時にあたしを呼んだ2人が、あたしの顔を覗き込んできた。2人の顔の合間から、青い空が見える。

ゆっくり視線をめぐらせると、ここはオープンデッキのベンチの上で。あたしは渚の膝に頭を預ける形で寝そべっていた。



「大丈夫か?」

あたしの額を覆うように、大きな手を置いたまま渚が聞いてくる。


「………平気。………ってか。渚に、膝枕されてるとか、……画がシュールすぎて笑える」
「俺も女に膝貸すとか、したことなくて笑える」
「……どこが。笑ってないじゃん、全然」


渚と顔を見合わせて半笑いを浮かべあってると。


「渚と崎谷さんってさ、いつからそんなに仲良くなってたの?」


七瀬が控えめに声を掛けてくる。


「少なくとも入学したばっかの頃は、そんな感じじゃなかったよね」

まるでひとり言のように七瀬は呟く。



なんとなく、渚といつもの調子で話しているところを七瀬に見られるのは決まりが悪かった。

とりあえずあたしが渚の膝から頭を起こそうとすると、渚はすかさずあたしを支えてくれる。「平気だ」と言いつつも、網膜に差し込むような強い日差しに一瞬目眩んで力の抜けた上体が大きく揺れた。

「崎谷さん、大丈夫?」

正面に立った七瀬が、悲愴な顔して「ごめん」と言って頭を下げてきた。


「崎谷さん………追い詰めてほんとにごめん。俺最低だ。女の子に無理強いなんてして」
「………違う。倒れたの、七瀬くんのせいじゃないから」


やたらと深刻ぶった顔をする七瀬の表情が痛々しすぎて、わざと軽く受けあった。


「七瀬くんとキスするのが死ぬほど嫌だったってわけじゃなくて。ただ嫌なこと思い出しちゃってただけ。だからもう大丈夫」
「それってさっき言ってた、俺に似てる人のこと……?」


笑みを浮かべながらも、動揺が隠し切れずに自分の顔が強張ったのがわかった。無言を突き通していると、七瀬はあたしの気持ちを察してか、それ以上はなにも聞かずにいてくれた。