聖人とその恋人が別れたきっかけは、あたしの一言だった。



聖人が恋人にばかりかまっているのが気に食わなくて、何気なしに『さっさと別れたら?あんなブスと付き合うなんて、聖ちゃんの神経疑うよ』って毒を吐いた。

でも本気で彼女と別れてほしかったわけじゃない。ただちょっとさびしかっただけ。そんな子供っぽい理由。


なのに聖人はあたしの言うことを間に受けて、その日のうちに泣いて縋りつく恋人を手ひどく振った。そして何事もなかったような顔をしてあたしに苦笑まじりに話しかけてきた。



-----------仕方ないよ。ニカが気に入らない人とは付き合えないからね。



あんなに仲が良さそうだったのに。あんなにきれいな人だったのに。
聖人はなんの未練もない顔であっさり切り捨てた。



------------しょうがないよ。いくら彼女が僕を思ってくれても、ニカには僕しかいないんだから。今度はニカがちゃんと仲良くなれそうなひとを探すよ。




あたしのためなら当然って顔をして、聖人は大事にしていたはずの恋人と別れた。




そのことに体が震えた。




聖人はあたしよりはるかに頭が良くて才覚があってやさしくて。
あたしが知る誰よりも「完璧」に近いひとだった。

そんな人があたしの言いなりで、あたしの気まぐれな一言にすら従おうとする。
そのことに当時のあたしは体が震えるようなおそろしさと、それ以上の恍惚を覚えていた。