「おまえ馬鹿?そんなん、やるだけ無駄だろ」
「なんで?」


なぜか渚は微妙な顔をする。


「おまえさ。自分の顔、ちゃんと鏡で見たことあるか?」
「あるけど………?」


それがなんだって言うのだろ。

目で聞いてみても、渚は何も答えない。自分で意味を察しろとばかりに押し黙る。なんだかすごく言いにくそうな顔。ああ。なんだ、つまり。


「メイクごときじゃブスは隠せねぇって言いたいわけ?」


あたしが笑いながら言うと、渚はなぜだかむっとしたような顔をする。それからボスっと頭を乱暴に叩いてくる。



「痛っ……ちょっと何すんの、ヅラが取れるでしょ」

「おまえがヅラ言うな。………前から思ってたけど。おまえさ。それ狙ってんの?」

「何が?何を?」

「俺に何か言わせようとして、あえて自分落とすような言い方してんのか……?」



渚らしくもなく、すごく歯切れの悪い言い方だ。



「ごめん。悪いけど、渚が何言ってるのか、さっぱり意味わかんないんだけど……?」


あたしがいうと、渚がいまいましそうに舌打ちをする。


「だから。……おまえが自分貶すとか自称ブスとか、嫌味でしかねぇつってんだよ」


やっぱり何を言いたいのかさっぱり分からない。あたしが疑問符を浮かべてると、渚はじれたようにぼそっと不明瞭な声で「……その顔でブスなわけねーだろ」と、吐き捨てるように言った。



言いたくないことを仕方なく口にしたときのような、そんな不本意そうな顔をする渚の耳朶が、わずかに色付いて見えたのは。……たぶん気のせいだ。

見てはいけないものを目にしてしまったような後ろめたさを覚えて、目を逸らす。視線の先では、車窓の形に切り取られた景色が飛んでいく。