ほどなく女性の甘い喘ぎが響きだし、わたしはぺこりとドア越しに頭を下げ、それからアパートから逃げるように駆け出した。 誰もいない。 わたしには誰もいない。 お父さん…… お母さん。 熱い…… でも寒い。 おかしいな……体に力が入らない。 意識が遠のきかけてきた。 指先さえ動かすのがひどく苦痛で、わたしは朦朧とする意識のなか、辛うじて携帯でリダイヤルを押す。 機械的な呼び出し音が鳴り、しばらくして麻美の元気な声がした。