どうやら夜でも街は眠らないらしい。
特に夏の夜は。

人工的に造られた明かりと、

誰かのざわめきと囁き、

他人への無関心。

沢山の雑音がこの街の夜を支配する。

そこが〝今の私〟の居場所。

これもまたこの世界の一つの顔なんだと、私はいままで気付かなかった。

それまで私が生きてきた『私の世界』にはないものだったから。

できることなら、ずっと知らずに生きていたかったけど、知ってしまった今ではもう手放す方が無理だ。

眠りに落ちれば、夜ごと悪夢が追ってくる。
〝あの日〟の出来事がエンドレスで繰り返されるなんて、落ち着いて眠れやしない。

そんな私にとって、眠らない街の存在はありがたかった。
眠れないのなら、寝なくていいのだと。
自分以外の知らない誰かの存在に安心する。

この街に生きている人たち、少なくとも夜の街に繰り出してくる人たちは、自分が生きるために必死で。
だから誰一人、私に関心がなくて。
それが妙に心地よかった。

少なくとも家や学校よりも、ずっと息がしやすい。
変な話だけど、それが私の実感だった。

世界を失ったあの日から、居場所と存在価値を無くした私にとって家も学校もただの窮屈な箱でしかなくなった。

私を知っている誰かがいるという空間は、それだけで息苦しい。
その場にいるだけで、発狂しそうになる。

だけど夜の街を彷徨う間は、同情や哀れみや好奇の眼から一時的に解放される。
誰かの視線や囁きを気にする必要もない。
清々しいまでの無関心が心地いい。

私はまるで夜の闇に堕ちていけるんじゃないかと、そんな錯覚さえ覚えた。

いっその事この街の無関心さが、私を飲み込んでくれたらいいのに。

骨のカケラや髪の毛一本すらも遺さずに、私を消してくれたら、っと。

そんなことを考えて私は自嘲気味に笑う。

生きている価値を奪われた私には、抜け殻みたいな、無価値なカラダしかなくて。

こんなものいらないと喚いて、いっそのこと消えてなくなりたいと両目を覆って叫ぶくせに、自ら命を絶つだけの気力は持ち合わせてなくて。

なんて消極的な自殺願望。
私はどこまでも中途半端だ。